老後の備え
治療院を営んでいる山田さんは、年金生活している患者さんから年金の話を聞いて、年金も患者さんによって随分差があることがわかりました。山田さんはサラリーマンではないので定年はありません。60歳前後で定年になるサラリーマンと違い、その後も仕事ができると漠然と考えています。でも、最近職業病なのか、腰や肩が時々痛くなります。どこかで現役引退の時期が必ず来ます。山田さんは個人事業主なので公的年金は国民年金のみです。現在の年金受給者に比べて自分が受給するころは、受給時期がもっと後になったり受給額が減額されているかもしれません。山田さんは今のうちから公的年金以外の老後の備えをしておくことが必要だと考えるようになってきました。では、今から始めるにはどんなことが出来るのでしょうか。貯金、個人年金、貯蓄型生命保険、株式投資、不動産投資等々。国は、小規模事業主の老後向けに公的な助成制度を設けています。小規模事業主はこれを利用しない手はありません。
小規模企業共済
先ず最近制度改正が話題となっている小規模企業共済のご紹介をしましょう。この制度は、小規模事業主が事業をやめたり退職した際に、生活の安定や事業の再建を図るための資金をあらかじめ準備しておく共済制度です。いわば小規模事業主向け退職金制度です。制度の運用経費は全て国が負担し、掛金とその運用収入は、全て加入者に還元される仕組みになっています。
では、この制度に加入できる条件はどういったものでしょうか。常時使用する従業員が二十人以下(商業・サービス業では五人以下)の個人事業主および会社の役員が加入できます。また、加入時の年齢制限はありません。山田さんは、サービス業になり、従業員は三人なので加入できます。では、パート含め六人だったら加入できないのでしょうか。規定上“常時使用する”従業員が五人以下なら大丈夫です。では、その後従業員が増えて五人を超えてしまったら退会させられてしまうのでしょうか。この条件はあくまで加入時なので、その後従業員が五人を超えても大丈夫です。
最近の法律改正により、平成二十三年一月一日より加入対象者が拡大されます。個人事業主の「共同経営者」で一定の条件を満たす方が加入できるようになります。「共同経営者」とは、個人事業の経営に携わる方で、一定の条件を満たせば、個人事業主の配偶者や後継者、親族以外の方も加入することができます。ただし、加入できる共同経営者は一事業主につき二名までです。共同経営者の主な要件は、事業の経営において重要な意思決定をしていること、または事業に必要な資金を負担していること。事業の執行に対する報酬を受けていること。会社組織ですと、役員クラスの人になるかと思います。
次に、毎月の掛金はどのくらいなのでしょうか。掛金月額は、千円から七万円の範囲内(五百円単位)で自由に選べます。加入後も掛金月額は増減できます。減額する場合は、事業経営の著しい悪化、病気・怪我等の理由が必要です。月払い以外に半年払い、年払いも可能です。払った掛金は、全額が所得税の課税対象所得から控除できます。この制度の税制上のメリットはこの所得控除にあります。具体的には、課税所得六百万円(税率三十%)の場合、掛金月七万円だと、年間八十四万円の所得控除が受けられ、所得税住民税が二十五万二千円節税(掛金の三十%)になります。所得税率は累進なので、最大掛金の五十%の節税が可能です。
共済金は、事業の廃業や事業主の死亡、会社の解散等の際に受け取れます。予定利率はかつて6.6%のころもありましたが現在は1%。では、掛金に対して共済金はどれくらい貰えるのでしょうか。掛金月額一万円の場合、納付年数三十年だと、掛金総額三百六十万円に対し、共済金は、その事由により変わりますが、最大四百三十四万八千円。差益七十四万八千円。これは、年利1%、毎月一万円の定期積立預金を行った場合の受取利息より、約十三万六千円多くなります。これだけだとそんなに魅力がないように見えますが、実際はさらに税金の節税額だけ得しています。課税所得六百万円(税率三十%)の人の場合、三十年間の節税額は掛金総額三百六十万円の三十%で百八万円になります。これを一般の金融商品に置き換えると、年間掛金十二万円に対して、節税額が30%の三万六千円、予定利率1%の一千二百円(厳密には月払いのためこれより少ない)。運用益は、節税額+利息=三万七千二百円。年間利回りは、なんと三万七千二百円÷十二万円=三十一%!この利回りは、いいかえると「自分の課税率+予定利率」です。課税所得六百万円(税率三十%)の場合は、三十%+一%=三十一%。最大課税率五十%の人は、五十一%。ただし、これは中途解約せず、元本相当額(掛金)を共済金として受け取った場合です。一般の金融商品でこんな高い利回りの商品があるでしょうか?(厳密には月払いのため年利回りはこれより低めになります)
共済金の受け取りは一括、分割(10年・15年)、一括と分割の併用が選択できます。共済金の税制上の取り扱いは、一括受け取りの場合、「退職所得」、分割受け取りの場合「公的年金等の雑所得」扱いになります。解約による受け取りは、掛金納付期間に応じて、掛金合計額の八十%から百二十%が解約手当金として受け取れます。掛金納付期間が二十年未満だと、掛金合計額を下回ります。解約手当金の税制上の取り扱いは、「一時所得」扱いになります。
契約者は、納付した掛金総額の範囲内で、事業資金の貸付けを受けることができます。貸付種類により条件は異なりますが、一般貸付けの場合、貸付限度額は掛金納付月数により、掛金の7割から9割。上限一千万円。利率は1.5%。
国民年金基金
小規模企業共済ほどの知名度はありませんが、加入可能な方はぜひ加入をお勧めしたいのが、この国民年金基金です。この制度は、自営業者等がサラリーマン等との年金額の差を解消するため“公的な年金制度”として平成三年に創設されたものです。創設時期が遅かったのと、加入が任意のため、加入できるのに加入されていない方が多いように思います。自営業者が加入する公的年金は国民年金(老齢基礎年金)のみ。一方サラリーマンが加入することになっているのが厚生年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)。両者を比較すると、老齢基礎年金部分は同じで、サラリーマンはさらに上乗せ分として老齢厚生年金を受け取れます。この差がかなりあります。現在の年金受給者を比べてみると、厚生年金受給者は年金だけで生活できますが、国民年金のみの受給者は年金だけで生活するのは大変厳しいと思います。今後の日本の高齢化を考えると、老後を国民年金のみに頼ることはできないでしょう。基金は「地域型基金」と「職能型基金」があり、どちらかに加入できます。
この制度に加入できる条件は、国民年金に加入し保険料を納付していること、厚生年金や共済組合に加入していないこと。加入資格の喪失は、六十歳になったとき、厚生年金・共済組合に加入したとき、海外に転居したとき、該当する事業または業務に従事しなくなったとき(職能型基金の場合)等です。基金への加入は任意ですが、いったん加入した場合、自分の都合で任意に脱退および中途解約することはできません。
国民年金基金は、給付のタイプにより、六十五歳支給開始の終身年金(一五年間保証付きと保証なし)と六十歳または六十五歳支給開始の確定年金(五年、十年、一五年間保証付き)があり、各々組み合わせができます。山田さんは四十歳、終身年金(一五年間保証付き)で六十五歳から月三万円年金を受け取る場合、掛金は、月23,070円を六十歳までの二十年間支払います。山田さんは何歳まで生きると元がとれるのかでしょうか。二十年間の掛金合計額は5,536,800円。これを三万円で割ると、十五年五ヶ月弱。六十五歳から受け取った場合八十歳五ヶ月で元がとれる計算です(金利を考えない単純計算です)。終身年金は死ぬまでもらえる年金です。それより長生きできるかどうかはわかりませんが、こころの安心を得ることができます。確定年金ですと、受給が終了した後まで生きたら生活費をどうしようという不安が生じます。保証期間中に死亡した場合は、遺族一時金が支給されます。掛金の上限は、月六万八千円。税務上掛金は、小規模企業共済と同様、所得控除ができます。受け取る年金は、「公的年金等の雑所得」扱いになります。
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