小規模企業共済徹底活用
近年人生百年と言われるようになってきました。個人事業主の方は国民年金の受給額だけでは老後の生活が不安です。元気なうちに老後の生活を考えて対策を打っておかなければなりません。積立預金や積立型生命保険、個人年金、株式投資、不動産投資等。公的な制度としては小規模企業共済、国民年金基金、個人型確定拠出年金があります。今回は公的な制度の中で最も使い勝手の良い小規模企業共済についてご説明いたします。
小規模企業共済とは
小規模の個人事業主及び会社の役員が第一線を退いたあとの生活資金等をあらかじめ準備しておくための共済制度です。加入者は毎月掛金を支払い、廃業、退任等の場合に共済金を受け取れます。税制上、掛金は全額が所得控除できます。共済金は一括受取りだと退職所得扱いになり、分割受取りだと公的年金等の雑所得扱いになります。また納付した掛金の範囲内で事業資金等の融資を受けることができます。
加入資格
治療院の場合はサービス業になり、常時使用する従業員の数が5人以下だとその事業を営む個人事業主及び会社役員が加入できます。また個人事業主が営む事業の共同経営者も2名まで加入できます。配偶者等の事業専従者は原則加入できませんが、共同経営者の要件を満たしていれば共同経営者として加入できます。共同経営者の要件は、携わっている事業が小規模事業であること、事業の経営において重要な意思決定をしていること、事業の執行に対する報酬を受けていることです。共同経営者が加入後に事業の経営に携わらなくなった場合は、その時点で解約扱いになります。常時使用する従業員の数には、家族従業員、臨時の従業員及び共同経営者は含みません。また加入時、常時使用する従業員の数が5人以下だったが、その後5人を超えても契約解除にはなりません。
掛金の支払
掛金は毎月払い、半年払い、年払いがあります。月額掛金は千円から7万円までの範囲内(500円単位)で選択できます。また中途での月額掛金変更も可能です。前納もできます。また、所得がなく掛金の納付が著しく困難なとき、災害に遭遇し、または入院しているため掛金の納付が著しく困難なときには掛金の掛止めができます。掛止めの期間は6ヶ月か12ヶ月になります。税法上掛金は全額を課税所得から控除できます。そのため事業での経費処理はできません。
共済金等の受取り
共済金等の額は政令で定めた基本共済金と毎年度の運用収入から定めた付加共済金の合計になります。共済金等の受取方法は、一括受取り、分割受取り、両者の併用から選べます。個人事業主が共済金等を受取る場合、その事由により金額や税法上の取り扱いが異なります。個人事業を廃業した場合には、一括受取りだと税法上退職金扱いになります。分割受取りだと公的年金等の雑所得扱いになります。中途で解約した場合の解約金は一時所得扱いになります(65歳以上の場合は退職所得扱い)。これだけでは違いが何だかよくわからないと思われますので以下具体例で説明します。
20年後の損得は?
個人事業主で年間課税所得500万円の方が、小規模企業共済月額掛金4万円に加入した場合、年間の所得税・住民税節税額は14万6千円。この方が同じ課税所得で払込期間20年、掛金総額960万円の場合、廃業による共済金の受取額は現行規定では1千115万円+α(付加共済金)。これにかかる税金は、税法上退職所得扱いになり23万8千円。差引手取りは1千91万2千円。掛金総額960万円を差し引いた運用益は131万2千円。小規模企業共済に加入しなかった場合に比べて、20年間のキャッシュフローは、毎年の節税額の20年間分の292万円に共済金の運用益131万2千円をプラスした423万2千円増加したことになります。
中途解約の場合にご注意
廃業ではなく解約の場合はどうなるのでしょうか。毎年の節税額は変わりません。解約金は加入期間により掛金総額に対する支給率が異なります。12ヶ月以上84ヶ月未満は80%。84ヶ月目から6か月単位で支給率が段階的に増加し、240ヶ月以上246ヶ月未満では支給率が100%。以降段階的に増加し、最高で120%になります。今回は加入期間が240ヶ月なので100%になり解約金は960万になります。
これにかかる税金は、税法上一時所得扱いになります(退職時65歳以上の場合は退職所得扱い)。一時所得は受取額から収入を得るために支出した金額、特別控除50万円を控除した金額の二分の一に対して他の所得と合算して課税されます。生命保険金等は掛金を控除できますが、小規模企業共済は、掛金は既に所得控除されているために控除できません。受取額960万円から特別控除50万円を差し引いた金額の二分の一455万円が他の所得である500万円に加算された955万円に課税されます。納税増加額は152万円。多額になったのは、所得税は累進課税のため税率が上がってしまったためです。
20年間の運用益はマイナス152万円。20年間のキャッシュフローは、毎年の節税額との合算では140万円の増加です。このように中途解約するとメリットが大きく損なわれることがありますのでご注意ください。治療院の場合、途中で個人事業から法人成りした場合その法人が小規模企業者であれば、通算の手続きをすることで契約を継続することができます。
契約者貸付制度
資金繰りが厳しい時、運転資金の調達をする際、金融機関の融資だと時間がかかったり、融資を断られることがありますが、この制度では商工中金の窓口に必要書類、印鑑を持っていけばその場で現金で融資してもらえます。貸付要件として、12ヶ月以上の掛金を納付していること。貸付限度額は掛金総額の7割から9割になります。