治療院の分院展開の注意点
何故分院展開が必要なのか?
最初にある事例のお話をします。ひーりんぐマガジンをみた治療院の先生から、分院を売却したいという相談の電話がありました。事情をお聞きしたところ、自分は末期癌で医者からあと半年しか生きられないといわれている。ついては、分院は閉鎖して分院長を本院に呼び戻したい。分院長はもともとお弟子さんとして面倒を見てきたひとで、本院に戻って院長とその家族を助けたいといってくれているとのこと。最近は院長と従業員の関係もビジネスライクな関係になっていますが、そんな中とても感動的な話でした。この事例で学ぶことは、事業主に何かあったときに、事業・従業員・家族をどう守るかというビジネス上のリスクヘッジとして、分院展開しながら信頼できる分院長を育てていたということです。一般的には、事業主が自分の所得を増やすために分院展開すると思われがちですが、このようなケースもあるということです。
他に分院展開のメリットとしては、従業員からみると頑張れば分院長になれるという目標ができることです。優秀な従業員を採用し、早期退職を防ぐことができます。いずれ独立しようと考えている従業員にとっても、その前に分院長の経験ができることはメリットでしょう。あと考えなければならないのは、自分はいつまで現場で仕事ができるかということです。30代、40代の働き盛りのときは、この状態が永遠に続くと思ってしまいがちですが、人間必ず老いが来ます。自分の50代、60代の仕事のイメージを考えてみて下さい。現場で治療をしているのか、それとも従業員に現場を任せて管理・指導を行っているのか。徐々に前者から後者に仕事をシフトできれば、年とってからも安心です。
分院展開に必要な人、物、金、情報
分院展開に必要な人、物、金、情報の4点についてお話します。先ず人ですが、分院が成功するも失敗するも分院長次第です。これは、患者がその院の先生につくからです。事業主は分院長を育てなければなりません。しかしこれには時間がかかります。そこで求人誌などで募集する手もありますが、これはリスクが大きくなります。そのような場合は先ず本院で従業員として仕事をさせて、その能力・適正を見極めます。専門学校のときの後輩や、前職のときの同僚、後輩からひっぱってくる事業主の方もいます。
物とは、店舗のことです。ディーラーや不動産屋に声をかけておくと、店舗情報が入ってきます。出店基準についてはすでに本院を決める際に経験済みのことです。コンビニの出店のやり方にドミノ方式という方法があります。これは、ある地域に複数の店舗を出店していきます。このメリットは顧客への認知度が高くなる。物流コストが下がる。治療院の場合は、地域一番店としての認知度が上がる。管理者の移動時間が節約できる。従業員の融通がきくなどのメリットがあります。
金とは、出店にあたっての設備資金、運転資金です。手持ち資金が足らない場合は銀行から融資を受けます。しかし融資を受けて分院出店が失敗したらと考えると、できるだけ融資は受けないやり方を考えましょう。うちのお客さんで上手にやられている事業主の方がいます。居ぬきでオーナーから治療院を買ってしまうのです。現に営業している治療院なので開業準備期間は必要ありません。即、売上がたちます。買収金額も売る側の事情により安く抑えられます。あとは、従業員にしっかりと教育指導をします。前オーナーのときはパッとしなかった治療院も生まれ変わって患者が増えていくのです。
情報とは、集客のためホームページを活用することです。カイロや整体など、100%自費の治療院は、集客のためのホームページの活用が進んでいます。保険が中心の治療院は、まだまだ遅れています。かつて患者は、お店を探すのに電話帳を利用していましたが、最近の患者は、お店を探すのに、検索サイトで、症状と場所を入力します。ここで検索サイトの1ページ目に出てくると、来院の確率がぐっと高くなります。
分院長との契約形態
先ほども述べましたが、分院が成功するも失敗するも分院長次第です。ここからは、分院長にいかにやる気を出してもらうか。どのような契約形態が望ましいのか検討を進めます。分院長との契約形態は、大きく雇用型とFC型に分かれます。雇用型は、雇用契約に基づいて給与を支払うやり方です。給与の支払いの仕方は、完全固定給、固定給プラス歩合給、完全歩合給に分けられます。完全固定給は分院長からみると売上に関係なく安定的なところが魅力ですが、事業主からみるとリスクが多くなります。売上が低くても給与をもらえるため、患者を増やそうという工夫もしない人もでてきます。
望ましいのは固定給プラス歩合給(または賞与)ですが、固定給をいくらにして、歩合給はどういった計算により支給するかが問題です。雇われる側は固定給が多い方が安心ですが、雇う側はこれをできるだけ低くしたいものです。歩合給は売上の何%とするのが一般的ですが、対象の売上を保険売上だけにして、自賠責売上を外したり、売上から諸経費を差し引いた利益の何%とするケースもあります。完全歩合給は事業主からみると一番リスクのない支払方法ですが、これは労働基準法上認められません。雇用契約である限り最低賃金の支払いをしなければなりません。管理が簡単で現場のモチベーションがあがった事例があります。これは、本院では毎月一定額を分院からとり、あとのことはすべて分院長に任せる方法です。分院長は売上から諸経費(本院への一定額の支払い含む)を引いた利益の分配が自由にできるのです。自分が全て取ってもいいし、従業員に分配も可能です。最初は全て自分で取ろうとしますが、それだと他の従業員のボチベーションが下がることを学びます。
FC型は、分院長が個人事業主になる契約形態です。本部は、店舗の敷金、内装代、治療用機器代などを負担して、これを分院長に貸す形をとります。この場合、本部の報酬の取り方は、売上の何%としたり、賃貸し料として毎月定額でとる方法があります。売上の何%とすると、FC側が売上をごまかすことがあります。保険売上はチェックできますが、自費のチェックはなかなか難しいです。賃貸し料として毎月定額でとる方法は管理が簡単で、FC側も儲ければその分まるまる手取りが増えるのでやる気がでます。FC型で気をつけるのは、解約時の扱いです。本部で負担した開業時の設備資金の未回収残を回収しなければなりません。違約金のかたちで契約書に記載が必要です。保証人も必要でしょう。しかし、それでも残債が回収できないこともあります。その場合は、他の分院長を見つけて、店舗運営を続ける方法もあります。
運営上の留意点
保険請求業務は、建前上分院は分院長が行うことになります。これを本院がノーチェックのままやらせると、不正請求をされてしまう可能性が生じます。かならず本院でチェックすることが必要です。分院長側からみると、本院で保険請求をして、これについて不正請求をされてしまう可能性があります。不正請求をしたのは本院だとしても、請求者は分院長の名前で行われますので、分院長の責任も問われることになります。法人が分院展開する場合、保健所への届け出上、開設者法人、施術責任者分院長にしていると、不正請求が分院で発覚すると、当然開設者の法人が営む他の治療院にも調査がおよぶことになるでしょう。最近保険者のチェックも厳しくなっていますので、十分な注意が必要です。
分院での売上のごまかしに対してはどのように対処したらいいでしょうか。保険売上については、保険請求時に本人負担額がでてきますので、これと窓口の保険売上を突き合わせればチェックできます。自賠責売上は、分院長が別途自分の預金口座を開設して、本院に内緒で請求すれば、自分の口座に入金することができます。金額が大きいので、これをやられるとこたえます。保険外の自費売上も、これを分院長が自分のポケットに入れてしまっても本院ではわかりません。そこで通常は、受付業務をやる人を別途採用して、分院長は窓口入金業務は行わないようにします。自賠責は窓口売上が立ちませんので、別途受付担当者が記録し、これを本院に報告するようにします。しかし、これは実際にあったケースですが、受付担当者と分院長が結託して売上のごまかしをしていた事例がありました。また受付担当者に窓口入金と日計表への記入を任しておくと、窓口での売上現金をポケットに入れて、日計表に記載しないと、一応現金残と帳簿上の残高は合ってしまい、ごまかしがわかりません。複数の人によるチェックが必要です。ここまでやるには人手がかかりコストが発生します。そこで、さきほど述べた本院では毎月一定額をとり、あとは全て分院長に任せるやり方にすると、ごまかそうという発想がなくなります。
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