治療院の経営戦略
治療院を営んでいる山田さんは、同業者の友人から怖い話を聞きました。「おい山田。おまえは2020年問題を知っとるか?人口動向分析によると日本は2020年までは国内総支出は横ばいだが、2020年以降国内総支出が激減していくそうだ。今の団塊の世代が75歳前後になり亡くなったりお金を使わなくなったりしていくからだそうだ。国内総支出が減るということは衣食住全ての支出が減少していき、国内需要で成り立っている企業も大きな影響を受ける。大企業は既に国内需要の減少を見越して成長の見込める中国アジア市場への進出に力を注いでおり、国内で成長が見込めるのは、医療・介護市場だそうだ。」
今のやり方のまま2020年になり、急に患者さんが来なくなったらどうしよう。今のうちから対策を考えておかなければ。でもどういった対策を打てばいいのか、山田さんは思考停止してしまいました。
国内総支出
このような環境変化の下で事業が成長していく、あるいは生き残っていくための打ち手のことを経営戦略といいます。経営戦略は、将来自分の事業をどうしたいかという経営目標によってその内容が異なってきます。従って順序としては、自分の治療院を今後どうしたいかという経営目標を設定することが先決です。「チェーン展開し10年後日本一の治療院になる」「5年後介護市場参入」「10年後腰痛治療の神様になる」経営目標の設定で大切なことは「いついつまでに○○○をやる」と期限を決めることです。山田さんは「2020年までに地域一番店になることで生き残こりを目指す」という経営目標を立てました。
では、2020年までに地域一番店になるためにはどんな打ち手を実行していかなければならないのでしょうか。それを考えるには先ず“己を知る”ことから始めます。「孫子の兵法」のなかに「彼を知り己を知れば百戦あやうからず」という名言があります。“己を知る”を具体的に分析するのが、SWOT分析です。これは、自社の強み、弱み、外部環境における機会、脅威の四要素を洗い出し、①自社の強みを活用できる市場機会を発見することにより勝ちパターンを構築できないか②自社の強みで市場の脅威を回避できないか③自社の弱みで市場機会を逃さないための対応策はないか④自社の弱みで市場の脅威が現実のものとならないような打ち手はないか検討します。
山田さんは自院の強みを洗い出してみました。
既に施術経験は10年以上。いろんな患者の症状に対処できる自信があります。治療院は最近改装したばかりできれいです。受付には感じのいい女性スタッフがいます。実は妻です。鍼灸、マッサージもできます。お金かけました。山田さんは自分で言うのもなんですが、元気でいつもニコニコしており、患者さんも山田さんの顔を見ていると自分の悪いところが治りそうな気になってきます。スタッフには毎朝朝礼で大きな声であいさつの練習をさせています。「いらっしゃいませ」「こんにちは」「お疲れ様です」「気をつけてお帰りください」新患の場合は、時間を多めにとって患者さんの症状をよくきき、施術方法、施術期間、来院間隔の説明をします。施術中の患者さんとの雑談も得意です。雑談のなかから、患者さんの職業、家族構成、趣味などを頭に入れます。次回の来院時に前回出た話題の続きを聞くと患者さんはとても喜びます。仲良くなった患者さんとは夜ちょっと一杯やったりします。するとその患者さんが別の患者さんを紹介してくれたりします。今の妻も患者さんの紹介で知り合いました。妻はケアマネージャーの資格を持っており、将来介護マーケットに進出することが出来そうです。
スタッフ定着率
自院の弱みは、スタッフの定着率が悪いことです。これはこの業界の特徴のひとつですが、経験者は癖があり扱いづらいので、未経験者を採用し育てることにしています。しかし、昔と違ってこれを恩と感じる若者は皆無です。ほとんどは技術をおぼえると、さっさと辞めて別の技術を習得するため他院や整形外科に転職していきます。せっかく一から教えてやったのにと思うと頭に血が上ります。山田さんは、師匠の家に住み込みで朝の雑巾がけから修行を積み、技術は見て盗むものといわれて育った世代です。スタッフの経験年数が少ないため、混んでくると山田さんの負荷が大きくなり、患者さんを待たせてしまい、別の治療院に逃げられてしまうことがあります。自分が病気になったらこの治療院はどうなるのでしょうか。不安です。なんでも言うことを聞いてくれる副院長がほしい。自院のホームページは、業者から患者が来るからと言われ3年前に作りましたがそのままになっています。辞めたスタッフがまだホームページ上で笑っています。情報を定期的に更新したほうがいいと聞きましたがどうやってやるのかよくわかりません。コンピュータは苦手です。
外部環境
外部環境における機会は、新しい市場の開拓、新しいサービスの開発です。今後の高齢者の増加による患者数の増加が見込まれます。交通事故の患者はこれまでたまたま獲れればラッキーと考えられていましたが、今はインターネットを使って集客したり、治療院に来た患者にパンフレットを渡したりして積極的に獲りに行くのが流行りになっています。保険外の施術を積極的に取り入れることで、保険施術売上の減少がカバー出来ます。しかし、言うは易く行うは難しとはこのことでしょうか。いろいろな施術技術があり、技術習得にはそれなりの費用と時間がかかります。流行り廃りもあります。対象とする症状も絞り込みが必要です。女性向けO脚・骨盤矯正は、女性の方が施術できるといいようです。介護マーケットへの進出は、柔道整復師の方で、デイサービス、ケアマネージャー業務を並行して行われているお客様が既にいます。マッサージ師は保険のきく訪問マッサージができますが、柔道整復師がマッサージ師を雇って訪問マッサージをやることもできます。逆にマッサージ師が柔道整復師を雇って接骨院を併設するケースもあります。治療院があることが患者側からみて信頼されるそうです。これから成長の見込める中国・アジアに出店することを検討されているお客さまもいらっしゃいます。
外部環境における脅威は、山田さんの友人が話した2020年問題。景気悪化傾向。同業他社の増加。訪問介護等隣接業界との競合激化。値下げ圧力。療養費予算の見直しによる保険施術売上客単価のダウン。本人負担割合のアップ。今後の高齢化は患者数の増加が見込める一方で、既に来院されている患者の高齢化は、歩いて来られなくなったりしていずれ来院数の減少につながります。自院の強み、弱み、外部環境における機会、脅威の四要素の洗い出しは、山田さん一人で考えるよりも、従業員にも考えさせることで、異なる視点からの項目が出てきます。従業員の事業への参加意識も高くなります。分院をお持ちのお客様で、従業員も一緒にSWOT分析をやったところ、いろんな意見や考え方が出てきて大いに盛り上がりました。また従業員に、従業員自身の強み、弱み、外部環境における機会、脅威を考えさせて、各人の目標設定につなげることが出来ます。
四要素の洗い出しが終わったら、これらを見ながら経営戦略を考えていきます。先ず、①自院の強みを活用できる市場機会を発見することにより勝ちパターンを構築できないか検討します。山田さんは交通事故で怪我をした患者の施術、損害保険会社との交渉の経験が豊富です。ホームページへの掲載やパンフレットを作成し来院者に配ることでこれまで以上に自賠責売上を伸ばすことが可能であることが分かりました。また妻がケアマネージャーの資格を持っているので、高齢化した患者さん向けに介護事業に参入することも中長期的に可能であることが分かりました。次に②自院の強みで市場の脅威を回避できないか検討します。高齢化して来院できなくなった患者さんには、妻がケアマネージャーの仕事をすることでお客を逃がさないようにすることが出来ます。次に③自院の弱みで市場機会を逃さないための対応策はないか検討します。スタッフの定着率を高くすることで新しい施術を開発し売上を伸ばすことができます。最後に④自社の弱みで市場の脅威が現実のものとならないような打ち手はないか検討します。今までやっていなかったホームページのSEO対策により集客を行い、将来的な患者減少に備えることが出来ます。思考停止していた山田さんは、これからの打ち手がはっきり見えてきたことでやる気が復活。よし、明日も頑張ろう!!
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