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もしも治療院の先生がドラッカーを読んだら

治療院を営む山田さんは、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」がベストセラーになったころ、本屋でP・F・ドラッカーの本が山積みになっており、何冊か立ち読みしたことがあります。難しい表現で分かりにくかったのですが、どうやらマネージャーだけでなく経営者にも必要なことが書いてあるように思いました。今回は、治療院を営む経営者の視点からドラッカーの教えをみていきましょう。

 

 

治療院の目的は何か?

そもそも治療院は何のために存在するのでしょうか。患者さんの悪いところを治すため??ドラッカー曰く「企業の目的は顧客を創造すること」。山田さんにもなんとなくわかります。患者さんが来ないことには商売あがったりです。かつて治療院を開業したころ、患者さんが来るかどうかとても心配でしたが、徐々に患者さんが来てくれ、仲良くなった患者さんの紹介でまた新たな患者さんが来てくれ、治療院としてやっていける自信がつきました。毎月新規の患者さんが何人か継続的に来てくれれば、治療院の経営も安定します。

 

そのためにはどうしたらいいのでしょうか。ドラッカー曰く「顧客が何を買いたいかを問い、製品、サービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにする」。これをドラッカーはマーケティングといいます。山田さんも開業したてのころは、時間もあったので患者さんの問診にもしっかり時間をとり、治療のやり方、治療期間等の説明をしていました。しかし、だんだん忙しくなってくると、患者さん一人当たりに割ける時間が減り、治療の途中で来なくなる患者さんが出てこないかちょっと不安です。患者さんは、自分の症状について話をよく聞いてもらい、納得のいく治療をしてもらうことを望んでいます。分野は違いますが、医者の場合も、流行っている医者ほど、患者の期待値が高くなり、それに対してあまり自分の症状について時間をとって説明してくれないことで患者の不満度が高くなるそうです。山田さんは取りこぼしが出ないよう、もう一度治療の流れを見直してみようと思いました。

 

新患を増やすためにもう一つ大切なことがあります。ドラッカー曰く「新しい満足を生みだすこと」。これをドラッカーはイノベーションといいます。患者さんの声に耳を傾けることで新たなサービスが生まれることがあります。例えば、腰痛の患者さんが多い場合は、腰痛の治療に特化して、その道のエキスパートを目指す。このやり方で大成功された先生が実際にいらっしゃいます。また高齢の患者さんから歩いて治療院へ行くのがだんだん辛くなってきたと聞けば、訪問による施術サービスをやってみる。訪問は来院と違い患者さんのお宅に伺うので、これはこれでマナーや会話の仕方などノウハウが必要です。これが出来るようになると、さらに鍼灸やマッサージなども訪問の追加サービスに増やせます。

 

 

治療院の事業とは何か?

山田さんの治療院は、接骨院で保険施術を中心に、交通事故などの保険外施術も行っています。最近は、鍼灸や訪問マッサージ、介護など新しいサービスも始めた方がいいのか迷っています。ドラッカー曰く「自社の事業を定義する。われわれの事業は何か。顧客は誰か。顧客はどこにいるのか。何を買うか。顧客の欲求、期待、現実から考える」。山田さんが自分の治療院は接骨院だと定義すると、それ以外の治療は行ってはいけません。迷わず、その道を進んでください。しかし、そう決めるためには、ドラッカーがいうように、患者さんの要求、期待、現実から判断しなければなりません。

今の治療院が団地の中にある場合、今後団地の住民の高齢化が進むことで、接骨院だけでは患者が減少していくかもしれません。私の顧問先の接骨院で、まさに団地の中にあり、お年寄りの患者さんから私のケアマネージャーをやってほしいと頼まれて、ケアマネージャーを始められた先生がいらっしゃいます。この場合、事業の定義は「地域の高齢者向け治療と介護サービス」になります。そう定義すると、治療院にみえる患者さんを診るだけではなく、訪問による各種施術や介護サービス等も事業の対象になります。これから日本は高齢化社会に突入していきます。高齢者をターゲットとした事業と定義することで、これから長期的に自らの事業を続けて行ける見通しが立ちます。

 

 

事業の目標を立てる

自らの治療院の定義をすることで具体的な目標を立てることができます。ドラッカーによれば、「マーケティングの目標は、既存の製品についての目標、既存の製品の廃棄についての目標、既存の市場における新製品についての目標、新市場についての目標等に分けて立てる」。治療院の場合は、既存の施術サービスについての目標を立てる。例えば、既存の施術サービスが保険施術、保険外施術、自賠責の場合、各々の施術についてもっと患者に満足してもらえるやり方を具体的に考える。既存の施術サービスのなかで止めるものについての目標を立てる。例えばウォーターベットを置いているがほとんど使っていない場合はこれを廃棄することでスペースが空き、新たなサービスを行うことが可能になります。既存の市場における新サービスについての目標を立てる。例えば、高齢の患者さん向けに訪問施術サービスを1年後追加する。新市場についての目標を立てる。例えば、隣接する介護分野へ5年後進出する。ドラッカーによれば、「マーケティングの目標は、次の二つの基本的な意思決定の後に設定する。先ず集中の目標。これは今立っている場所が集中すべき分野であり、限られた経営資源をそこに集中する。次に市場地位の目標。最大ではなく最適を目指す」。治療院の場合は、限られた経営資源を効果が高いと思われるものに集中させる目標にする。また地域一番店は、規模ではなく質で一番を目指す。

 

次に顧客の新しい満足を生み出すイノベーションの目標について、ドラッカーは、「製品とサービスにおけるイノベーション。市場におけるイノベーション、消費者の行動や価値観におけるイノベーション。製品を市場に持っていくまでの間におけるイノベーションに分けて立てる。イノベーションの目標を設定するには、イノベーションの影響度と重要度の測定をする」。なかなか難しい表現になって来ました。治療院の場合には、新たなサービスとして、保険外施術、隣接する分野である鍼灸、マッサージ、ケアマネージャー、デイサービス等介護分野等をピックアップし、現在店舗のある地域の特性(地場産業、年齢構成、昼間人口等)、今後のこれら地域特性の変化見込み等から新たなサービスの選定を行います。例えば、東京都内はこれからいっきに高齢化が進むといわれています。既に現在医療分野でリハビリ関係の専門職(理学療法士、作業療法士等)が足りない地域があるそうです。“回復期のリハビリ”は医療保険の対象ですが、“維持期リハビリ”は介護保険の対象になります。整形外科に勤務経験のある柔道整復師であれば、“維持期リハビリ”を新サービスとして実施することは、そんなにハードルは高くありません。私は、今後、接骨院に“維持期リハビリ”を併設するビジネスモデルが生まれ、そして伸びるのではないかと思っています。

 

事業目標として、ドラッカーはその他に「人(人材)、物(物的資源)、金(資金)、三つの経営資源の目標を設定する。三つの経営資源各々について生産性の目標を設定する。同時に、生産性全体についての目標を設定する。企業は社会との関わりを持っており、社会的責任の目標を設定する。利益目標を設定する。利益とは、未来の費用。事業を続けるための費用」。治療院の場合、人・物・金の三つの経営資源は極めて限られています。少ない従業員の生産性を高めることは必須です。症状毎の施術の仕方、標準施術時間、一日当たりの従業員毎の売上等を目標として設定します。特定の症状に対処するために最新の治療用機器の購入が必要であれば、資金の手当ても含めて、購入時期を決めます。

 

 

戦略計画を立て実行する

事業目標は具体的に何時、誰が、何を行うかという行動計画に落とし込みます。ドラッカーはこれを戦略計画と呼び、「戦略計画は思考であり、資源を行動に結びつけるもの。不確実な明日のために今日なにをなすべきか。リスクを伴う起業家的な意思決定を行い、その実行に必要な活動を体系的に組織し、それらの活動の成果を期待したものと比較測定するという連続したプロセス」といっています。。。以下省略

引用 ダイヤモンド社「エッセンシャル版マネジメント基本と原則」P・F・ドラッカー著