住宅取得時の優遇税制
治療院を営む山田さんは借家住まい。妻から子供も来年小学生になるので勉強部屋も必要になるし、そろそろ自宅を買ってと言われています。妻によれば結婚するとき、山田さんは「結婚したらいずれ家族のために一戸建てを買うから」とプロポーズしたとか。山田さんに記憶はありません。新聞チラシなどの一戸建てやファミリータイプのマンションの値段をみると自己資金だけでは到底買えません。銀行で住宅ローンを借りるか親に支援してもらうしかありません。たとえマイホームが買えたとしても、その後毎月のローンの返済がちゃんと出来るのでしょうか。既にマイホームを買った友人によると、自宅購入時及びその後、税金面での優遇措置があるとか。今回は、山田さんのように住宅購入をする際の優遇税制についてお話します。
親からの住宅資金の贈与
山田さんの親が住宅資金を出してくれた場合、税務上は贈与になり、贈与税が課税されますが、一定の条件を満たせば贈与税がかかりません。一定の条件とは、先ず住宅資金を出す人が直系尊属であること。妻の親は山田さんにとっては義理の親なので直系尊属にはなりません。従って、妻の親から住宅資金の贈与を受ける場合、これを山田さんがもらった場合は、通常の贈与となり贈与税がかかります。これを妻がもらった場合は、直系尊属からの贈与になります。
次にお金をもらった人は、20歳以上で所得が2千万円以下。建てる家屋は、床面積50㎡以上、240㎡以下。(240㎡以下の条件が平成24年から追加されました)その床面積の2分の1以上が居住の用に供されること。1階が治療院で、2階が住居の場合は、2階の床面積が延べ床面積の2分の1以上でないといけません。中古の家屋を購入する場合は、その家屋が築20年以内(耐火建築物は25年以内)に建築されたものであること。
非課税の上限は、平成24年1千万円。平成25年700万円。平成26年500万円。尚、その住宅用家屋が省エネまたは耐震基準に適合している場合は、非課税の上限がアップし、平成24年1,500万円。平成25年1,200万円。平成26年1千万円。例えば、山田さんの親から1千万円、山田さんの妻が妻の親から1千万円の住宅資金の贈与を受けて、それが前記した条件を満たせば、計二千万円について贈与税はかかりません。この住宅資金の非課税の適用に当たっては、贈与を受けた人は、その贈与を受けた年の翌年3月15日迄にこのお金を全額使い住宅を建てて住み、贈与税の申告をしなければなりません。
親からの住宅資金の贈与の非課税の優遇措置はこれだけではありません。もうひとつあります。相続時精算課税選択の特例を使うことにより、さらに2,500万円迄贈与税の納税をしないことができます。相続時精算課税とは、事前の届け出により生前贈与した贈与財産について、相続時に相続財産に加えて相続税を課税する制度です。この2,500万円迄の贈与額は贈与時は非課税ですが、相続時に相続財産に加算されて、相続税の課税対象になります。通常の相続時精算課税は、贈与する親の年齢が65歳以上という条件がつきますが、住宅取得資金贈与の特例は、住宅資金を贈与する親の年齢が65歳未満でもできる特例になります。贈与は基礎控除が別途110万円あります。以上をまめると、山田さんは、最大で親からの住宅資金の贈与は、平成24年だと、贈与の非課税枠一千万円と、相続時精算課税住宅取得資金贈与の特例2,500万円、贈与の基礎控除110万円の合計3,610万円まで贈与税の納税が生じません。山田さんの妻も、妻の親から同様の扱いができますので夫婦で7,220万円まで贈与税の納税が生じません。
親から住宅資金を出してもらえるが、あいにく前述した贈与税の非課税の条件に該当しない場合は、そのままもらってしまうと贈与税がかかってしまいます。このような場合は、親から住宅資金を借りたことにして、金銭消費貸借契約書を作成することもありますが、その後約定の返済を行っていないと、税務署から実際は贈与だと看做されて、贈与税を支払うことになってしまうこともあります。親に出してもらった住宅資金を返済する気がないなら、次に記述するように親がそのまま出したお金分不動産の名義人になれば問題ありません。
住宅の名義をどうするか
住宅を購入する場合、登記する名義を間違えると、後で贈与と看做されてとんでもない税金を納めなければならない場合がありますので、名義は慎重に決めましょう。例えば、山田さんが親から住宅資金を出してもらい、前述した贈与の非課税の手続きをしないまま、名義を全て山田さんにして登記したら、これは親から子供への通常の贈与になり、贈与税が発生してしまいます。親が出した資金が一千万円だとすると、231万円の贈与税になってしまいます。後述しますが、住宅の名義を夫婦で共有にし、住宅借入も夫婦で別々に行えば、夫と妻各々別枠で住宅取得税額控除の適用を受けることができます。そのために住宅の名義を夫婦で半々にした場合に、頭金も夫婦で半分ずつ出した場合は問題ありませんが、全額を夫が出した場合は、その半分が夫から妻への贈与と看做され、妻は贈与税を支払うことになってしまいます。また、妻にそんなに所得がなく、実際には妻名義の住宅借入金の返済資金を夫が出している場合は、この返済資金分妻が贈与を受けたと看做されてしまいます。
基本的な考え方は、頭金については、住宅資金を出した人、贈与の場合は贈与を受けた人、借入資金の場合は返済する人が名義人になります。夫婦共有名義にする場合は、お互いの年収に応じた持分にしておくのが無難です。2世帯同居住宅の場合も、住宅資金を親が出した部分は親の名義になります。ここで前述した親から子への住宅資金の贈与の特例を受ければ、子の名義にしても贈与税はかかりません。ただ、この制度を使い全財産を子供に贈与してしまい、親の名義なしにしてしまうと、将来子供が親の面倒を見ないということもありえますのでご注意ください。
住宅購入の際、妻から「私も共有名義にしてほしい」といわれても妻に所得がなく、住宅の名義を全て夫にせざるおえない場合があります。このような場合、「頼む。20年辛抱してくれ」と言ってください。婚姻期間が20年以上になると、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭を配偶者に贈与した場合には、課税価格から2千万円が控除されます。つまり、2千万円までは、贈与税がかからないということです。長年の妻への感謝の気持ちを、この贈与税の配偶者控除の制度を使って伝えたいとお考えの方もいらっしゃいますが、自宅全て贈与してしまうと、「はいさようなら」と離婚され自宅を追い出された夫も本当にいるそうです。
離婚の話が出ましたが、夫の浮気が原因で離婚し、夫名義の自宅を全て慰謝料として妻に譲った場合、それが過当な財産分与でなければ自宅をもらった妻には贈与税はかかりません。一方、夫の方は時価相当で譲渡したことになり、不動産の譲渡課税の対象になります。
住宅取得税額控除
山田さんが平成24年に居住用の家を購入し居住したら、銀行等からの住宅借入金の毎年12月末残高の1%、最大30万円(平成25年購入の場合20万円)の所得税額控除を10年間受けることができます。銀行借入の金利が3%だとすると、1%の所得税額控除を受けられれば、実質2%の金利負担ですみます。この適用を受けるには一定の条件が必要です。以下省略